なっとう

タグ: 状態変化 縮小娘 食品化 食べられる | 2013年3月2日 16:27 | Pixivで見る
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大豆製品ばかり食べてるおかげで、豆腐みたいに白い肌をして湯葉みたいな滑らかな肌触りで炒り豆みたいな芳ばしい香りがして乳房からは豆乳みたいに甘い乳が出る…… <a href="/jump.php?http%3A%2F%2Ftwitter.com%2Fhidesys%2Fstatus%2F306607989241040896" target="_blank">http://twitter.com/hidesys/status/306607989241040896</a>

腕の中にある彼女の頭を弄る。サラサラの髪をかき分けて頭皮の匂いを スン と嗅ぐと、炒り豆みたいな香りがした。

「びっくりした。キミに体臭なんてあったんだ」
「やめてよ、もう。。。」

 *

好物は大豆食品だと言っていた。なっとう、トウフ、炒り豆、きな粉、湯葉に厚揚げや豆乳。彼女が大豆食品に対して好物というより完全な偏食狂であることを知ったのはずっと後だ。彼女はほとんど大豆食品しか口にしなかった。
大豆ばかりを食べているおかげだろうか。肌は絹ごし豆腐のように透き通り、湯葉のようななめらかな肌触りだった。豆乳みたいな甘い乳が出ること知ったのは付き合いだしてからだけど。子どもも生んでない彼女が少し膨らんだ乳房から乳を出すのは、大豆イソフラボンのせいなのかどうなのか。

私は彼女の頭の上で広げていた文庫本をベッドの上に伏せ、脚の間の地べたに女の子座りしている彼女を眺めた。自分より少し背が高くて、華奢で、骨ばった身体を、後ろからギュッと抱きしめる。彼女はスマホを弄る手を止めずに、目線だけをこっちへやった。

「でさ、この前言ってた縮小液が届いたんだけど。」

あくまで普段を装って、私は口に出した。

 *

「ねぇ。ホントに後悔しない?」
「今が一番いい時期だと思うし。あと、食べられたら後悔も何もなくない?」

アルコールに浸したフキンで身体を拭きながら、私は最期の確認をする。耳の後ろも、穴も、下半身も、足の裏も、拭き残しがないように念入りに。大きな食材はくすぐったい素振りも見せずに、従順に身体を拭かれるがままにしていた。変な常在菌が入って彼女が台無しになってしまうのは避けたかった。

「おなかの中とか天国で後悔してももう遅いよ」
「たぶんこれがボクにとって一番いい人生だろうから。ただ、美味しく食べてくれさえすればボクは嬉しい。はい、あーん。」

彼女はそう言うと、こっちを向いて小さな口を開ける。キレイに並んだ歯の上に小さな舌が突出される。吐き出された息には、ただ体温のみの隠微な香り。梅キャンディーのような色味をした小さな舌に、私は縮小液を2, 3滴落とした。

 *

蒸しあがった大豆の海から茶色の服を箸で取り上げる。稲わらで編んだお手製の縄文風ドレス。稲わらを高温に晒すことによって、中に住む納豆菌は休眠から目を覚まし、その他の雑菌は死ぬ。このドレスは、これから作るなっとうの大切な種だ。
アルコール滅菌されたまな板の上で佇む着せ替え人形に、出来上がったドレスを箸で渡す。着られる程度まで温度が下がったのを確認して、彼女は編み服を着込んだ。縄文資料館に展示されてる模型に飾られているような、縄文時代の小さな人形。彼女は、人形でありつつも食材でもあった。

 *

大豆を敷き詰めたタッパーの中に、小さな縄文人形を横たえる。彼女は長方形の箱のなかでつぶつぶの豆の中に埋もれて、棺桶を模した悪趣味なままごとのようだった。

「じゃあね。美味しくなって」
「うん。また。」

まぶたを閉じたままの人形の上に、残りの大豆を投入する。まもなく、タッパーは蒸しあがった大豆でいっぱいになった。

 *

発酵は室温で1日、熟成は冷蔵庫で2, 3日。4日目の朝に、私はタッパーを冷蔵庫から取り出した。
フタを開けると、プン となっとうの臭いがする。ほとんど無味無臭だった彼女からは考えられないような、濃厚で芳醇な香り。お茶碗と味噌汁の並んだ食卓の上で、私は豆の中から彼女を探した。

真っ白だった肌は、周りのなっとうの粒と同じように、小麦色に焼けていた。外へ出るのを嫌がっていた彼女は、今や頭の上から足の先まで健康的な褐色に染まっている。まぶたは最期の時と同じように深く閉じられていた。身体から漂ってくる芳香がなければ、ただ眠っているだけのように見えるだろう。

 *

「いただきまーす」

中心まで十分に発酵の進んだ彼女の身体は、抵抗もなくスッと箸が入った。アツアツのご飯と一緒に一口。なっとうイチやにおわなっとうでは比較にならない、オカメ納豆よりも匂い控えめだけど奥深い芳香が鼻孔をくすぐる、最高のなっとうだ。柔らかさとともにしっかりとした大豆の香りもする。ただ、彼女の食生活の結果だろう。私は、一度しか楽しめないなっとうの美味しさに舌鼓を打ちながら、ゆっくりと食事を進めた。

 *

「ごちそうさまでした」

食卓にある味噌汁も茶碗もコップも空だ。ただただ、茶碗に少し残ったなっとうのぬめり気が、唯一彼女の存在の痕跡となった。

オワリ

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