魔女入りポーション

タグ: 状態変化 物品化 食品化 液体化 売られる 食べられる 手違い | 2013年2月11日 12:13 | Pixivで見る
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新しいポーションを錬成していた魔女は、足を滑らせて大釜の中に落ちてしまい材料の一つになってしまうが……

ポコ…ポコポコポコ……

霧が立ち籠めた部屋の中になんともいえない薬草の匂いが漂う。大釜で煮られるポーションを覗き込みながら、底が焦げ付かないよう私はゆっくりとお玉を回した。

 *

資本主義経済社会、とくに大手の製薬会社などがまだ手を広げられていない地方において、我々魔女は市井の食料品店や宿屋と同じように、生活のために製薬や錬成を行なっている。私とて一戸の製薬自営業にかわりはなく、多くの小規模私的企業が林立する中では労賃は圧縮され、生活をしていくためにギリギリ必要とされる程度しか所得を得ることができないでいた。他の食料品店や宿屋の経営主と同じく、ちょっとした旅行や贅沢はできるものの、手広く事業を行ったり、跡継ぎや弟子のために財産形成を行ったりする余裕はない。しかし、先の見えない不安定な世の中において、いざというときのために蓄財をしておく必要はある。このために、私は新薬開発による先行者利益を得ようと、日々日常の業務をこなしつつも新しいクスリの開発に取り組んできた。

「で、ここで鶏を4羽投入っと。」

大釜の中では新しく開発しているより強力なポーションがブクブクと泡を立てている。今回は、少し高級な材料を使って、わりあい効力の高いポーションを作ることが目的であった。
釜の中に投げ入れられた生きた鶏は、液面の中にすぐ沈んでしまう。巨大なお玉で幾回かかき回すと、すぐに固形の感触がなくなった。

ポーションは様々な薬効成分を持つ薬草や動物を元にして作られる。それらを素早く溶かしてしまい有効成分を取り出す、これが私の考えついたアイディアだ。強力な消化液で材料を溶かしてから中和剤で安全なポーションにする。
消化液といってもただの消化酵素などではなく、特別の魔法が混ざっていた。先ほど投入されて融かされた鶏も、ドロドロに溶けて死んでしまったのではなく、液体になっても生きている。生命力を失わないままの材料がそのままポーションの使用者に直接作用する、これが私のポーションの売りだ。

 *

錬成を初めて12時間。そろそろ疲労の限界だ。ほとんど完成に近付いたポーションを眺めつつ、私は最後の作業に移ることにした。

「さて、最後に中和剤をっと、キャッ」

疲労が溜まっていたのか、ブクブクと泡立つそれの気泡で濡れた作業台が滑りやすかったのか、私は足を滑らせて転倒をしてしまう。そして、転倒をしたその先は運悪く、先ほどまで様々な材料を溶かして取り込んできたポーションの釜だった。ボチャン!

「キャアアアアア!!!!!!」

ポーションに触れた背中側から、私はすみやかに分解されて液体になっていく。パニックに陥った私は、消化魔法に対する対抗のスペルを忘れてしまう。ブクブクブクブク!!!! 大釜の中でもがいているうちに、私は完全に液面下に沈んだ。

(ゴボボボボ…… ああっ、熱い!!!)

強力な消化液と魔法で私の身体はどんどん融かされていく。うぇーん、どうしよう……
思案をしているうちに、私の身体は完全に液状化して、ポーションの材料の一つとして釜の中に融かされてしまった。

 *

「おっししょーさまー!」

元気の良い声とともに部屋の扉がバンッと開く。シメた! 弟子だ! 助かった…!
彼女はまだ魔法少女の見習いではあったものの、先月液体からの生命分離について講習をした所であった。実践作業は始めてになるけれども、私からの助言無しにちゃんと私を分離できるかしら……?

「ゴホッゴホッ! なんですかこの肌色の霧は……なんだか甘酸っぱい」

彼女はひとりごとを言いながら釜の方へ近付いてくる。早く私を救ってくれ!
「おー。新しいポーションだー。でも、まだ作りかけみたい」
フツフツと泡立つ水面を彼女は覗き込む。

「う~ん。もう材料は全部煮込んであるみたい。こっそり完成させて、びっくりさせちゃお」

 *

「まずは強火でひと煮立てさせてから、中和剤を入れて素早くかき混ぜるんだよね」

弱火になっていた釜を彼女は強火にする。釜の中で私は身体全体がラディカルに沸き立った。
(ああ熱い熱い! ああああああああ!!!!)

「♪~」
彼女は水面が激しく泡だったのを認めると、作業机の上のビンに手をかける。

気付けバカ! やめろ中和剤を投入するな! 元に戻れなくなる!!

彼女はそんな声に気付くことなく、さっき投入しそびれていた中和剤を大釜の中に投入した。そしてよく混ざるように、お玉で釜の中身を素早くかき回す。お玉が私の中で無遠慮に動く。釜の中で層状に溶けて漂っていた私は、完全にポーションと混ざり合ってしまった。

ああ、あああ、、、はぁ……はァ……

 *

窓から日差しが差し込んでくる。朝だ。
釜の中で一晩寝かせられた私は、程よく冷えていた。

ガチャリ、と扉が開いて、弟子が入ってくる。ど、どうなるんだ私は……

「う~ん。おししょさまどっか出かけたのかなぁ。今日は平日だから薬売らなきゃいけないのに……、代わりに店支度か。 ちょっとその前にお味を拝見~」

(ヒャゥッ!)

静かになっていた液面にスプーンが差し入れられる。彼女は液面から掬ったポーションに口を付けた。
「うわー、美味しい。薬臭さをカバーするような独特の甘みと、モモっぽい爽やかさが。あと、なんだか魔力が湧いてきたような気がする」

(そんな……甘くてモモの香りがするだなんて……)

十分な魔力を備えた魔女を材料にしたポーションは、とっても美味しくてすごく効能のある回復薬になっていた。

 *

『スペシャルポーション 2000Rp/10ml』

大きなビンに詰められて、私は店頭に並ぶ。私自身を材料費に含んでいないポーションは、効能に対して破格の価格設定となっており、今日のお店の目玉だった。

(やめて…買わないで…… 私は薬じゃないのに……)
「おう、姉ちゃん。このスペシャルポーションひと瓶。」
「50mlでいいですか? ありがとうございますー」

(…や、アッ…… んん、ああ!!)
店頭で私は量り売りされる。オタマで掬われて瓶に詰められ売られていく。買ってすぐ使う人や味見をする人に消費されていく。

ゴクリ。
(ひああああああ!!!!)
「うわっ すごいねこのポーション。MPももりもり回復するみたい。」
「でしょー。是非これからもよろしくおねがいしますねー」

 *

「うわー。今日一日で全部捌けちゃった。すっごく売れ筋になるんじゃないコレ?」
(…………)

見習いの魔法少女は空になった店頭の大瓶を覗き込む。ガラスに残ったポーションから、かすかにモモの香りが漂っていた。
「う~ん、やっぱりいい匂いだなぁ。さてさて店仕舞い店仕舞い」

そう言いながら彼女は、空になった大瓶を洗うために工房へ抱えて持って行った。

オワリ

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