カエル風船

タグ: R-18G transfur カエル化 手違い 捨てられる | 2013年1月10日 03:47 | Pixivで見る
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暖かいところに行きたい。  かんやんさんの「輪ガム」がすごく良かったので、参考にさせていただきました。 <strong><a href="http://www.pixiv.net/novel/show.php?id=1091159">novel/1091159</a></strong>

「ねぇ、見て見て! はい!」
「うわっ ヒィィィ!!」

私は手のひらに包み隠したカエルを友人に突き付ける。彼女はあまり可愛げのない声を上げつつ全力で顔を遠ざけた。

私たちの住む街は古くからの田園地帯で、通学路には田んぼの中に浮かんでいた。なんでも、学校から府道までは農地転用をできないのだとか。今年の残暑は短かった。そろそろ夜中にカエルの大合唱がうるさい季節だ。
私たちはいつも同じ通学路で、秋にはカラスノエンドウを、冬には枯れた一年草の枝を、春にはホトケノザを、そして夏にはアサガオやカエルを、道すがらに採っては遊びつつ登下校をしていた。

あっ そうそう。途中の100ロでヤクルトを買ったときにストローが付いてきたんだった。この街も少しづつだけどベットタウン化してきていて、最近は都会の象徴である100円ローソンさえ学校の近くにできたのだった。
私は手に掛けたゴミの入ったスーパーの袋をゴソゴソと探り、ヤクルトの空き瓶に刺さった小さなストローを取り出す。
そして、手の中でどうにか逃げ出そうとするカエルを鷲掴みにすると、その鋭い先でカエルちゃんのおしりを的に定めた。

 *

「ねぇ~ カエル、かわいそうだよ。」
「うんうん」

返事も生半可に私はストローをカエルのおしりにぶっ刺す。あまり浅く刺すと途中で抜けちゃうから、けっこうこれでもか!というぐらいまで深く刺すのがコツだった。
私は、まだもがき苦しんでいるカエルを見つつ、そのおしりから出たストローの口にくちづけをする。

プゥーーーーー、プ、プーー。

カエルを串刺しにしてバーベキューするわけではない。無論、カエルの中身をストローで吸い出すのでもない。
私は、初めはゆっくりとでも大胆に、そして最後は割れないように気を付けながらカエルに息を吹き込んだ。

 *

白いお腹は中身が透けるほど膨らんで、カエル自身はエビ反りになっている。口をパクパクさせているが、空気漏れはしていないようだった。
カエル風船は口を離すとしぼんでしまう。だから、私は口にカエル風船を付けたまま友人を追いかけた。

「キャーー!」
彼女は悲鳴にならない悲鳴を上げながら必死で逃げる。私も彼女を必死で追いかける。ニガテなカエルが膨れたまま追っかけてきたらさぞかし恐いだろう。私は愉快な気分になりながら走った。

その時、吐息が鼻からではなくうっかり口から漏れたのだろう。

パンッ

限界まで膨れていたカエル風船は、あっけなく割れてしまった。

 *

アスファルトの上に転がった残骸はまだ生きていた。頭がビクビクと痙攣している。
戻ってきた友人は死にかけの死骸に変な顔をしながら視線をやっている。
「とどめを。刺してあげたほうが。」
動物は、人間でもそうなんだけど、完全な死体よりも不完全な形なのに息がある方がグロテスクだ。

息も切れ切れのアドバイス通りに、私はサンダルをカエルの上に振り下ろす。ぐりぐりぐりぐりゾリゾリゾリゾリ……
私はカエルを体重をかけて磨り潰したあと、アスファルトの上にペーストを擦りつけた。あとに残ったのはなんだかよくわからないただの染みだ。夕立でも降れば、痕跡も残さず消え去るだろう。

 *

夜は夕立だった。私は勉強の合間のリフレッシュと称して、傘を広げて田んぼの中を歩いていた。カエルたちの賛美歌とコンクリートが雨粒を吸収する雨の匂い。

ふと、長靴の中で湿った感触を受ける。あれ、穴あいちゃったかな? くつ下は脱ぐからいいけど、寝間着は濡れたらやだなぁ…… 不安になって立ち止まり、ズボンの裾をまくり上げる。残念なことに、裾は少し濡れていた。
今度は肩に水滴の感覚。うわ、上も替えかな。と思って肩をすぼませる。

傘が破れてるのかしら…… 天にやった視線を手元に戻したとき、私は奇妙なものを発見した。
手が、青い手袋上の、ペタペタしたよくわからないものになっている。

こんな手袋持ってたかしらと思ってもう片方の手にも目をやると、一方も同様の状態になっていた。
手袋ではない。傘の柄の硬い感触はダイレクトに伝わってきている。

 *

「やだ! なにこれ!? うわああやだやだやだやだ!!」

身体中が少しずつ青色のぺたぺたしたそれに変わっていっていることを発見した私はパニックだった。脚は太く、強靭になり、腹は白く大きく膨らみ、顔はくちが前方にせり出してくる。私はペタ付く手で身体中を確認しながら雨の中で濡れていた。

「ハッハッ、げ、ゲげ、ゲコ、ゲコゲコ……」

いつの間にか、雨を喜ぶカエルたちと同じ声が、私の口から出ていた。

 *

昼間は散々だった。いつも見慣れている田んぼも、地面に這いつくばって見ると全然世界が違う。早速私は道を見失ったのだ。
田んぼの中を泳ぎ、サギに危うくついばまわれることを回避して逃げ惑い、いつも通っている通学路にたどり着いたのは下校時刻だった。

「プゥゥ~~~ン」
蚊か、小さな羽虫が周りを飛んでいる。私は、ほとんど無意識でそれに下を伸ばしてキャッチした。
食料を嚥下してから私は考える、ほとんど本能の動きだったと。

彼女なら私をわかってくれるはず。他の誰でもなく、彼女なら。きっとわかってくれる。
私は自分をそう自信付けながら、私はコンクリートのあぜ道の上で、彼女が来るのを待った。

 *

「それっ」

突然、視界が真っ暗になった。道路を歩く生徒たちに注目をし過ぎて、仕切りの上をバランスしながら渡ってくる子に気付かなかったのだ。私は下校途中の生徒に捕まえられてしまった!
狭い両手の中から逃れようともがく。しかし、無駄な抵抗であることは十二分にわかっていた。指の隙間から漏れ来る光に目を凝らしながら、私は不思議と私を包む手の匂いに懐かしさを感じていた。

 *

「ねぇ、見て見て! はい!」
「うわっ ヒィィィ!!」

パッと周りが明るくなる。そこには、待ちわびていた彼女の大きな顔。

「ゲコッゲコッ」
私よ! 気付いて! お願い!
どうにか気付いてもらおうと、どうにか私が私であることを伝えようともがいたが、私は私を捕まえた子の手にあっけなく握られ跳びかかることはおろか逃げ出すことも出来なかった。

? そういえば、私を捕まえてるこの手の持ち主って……
不安を感じながら上を見上げると、そこにははしゃぐ大きな私にそっくりな、いや、私自身の顔があった。

 *

「ねぇ~ カエル、かわいそうだよ。」
「うんうん」

やめて! やめて! 死んじゃう!!
私は私にストローで膨らまされて、割られて、踏み潰されて死ぬ。そんな筋書きなんか受け入れられなかった。
叫びも虚しく、私はおしりに大きなストローを突き立てられる。身体の中に侵入してきた異物は、すぐに私の中を突き破った。そして、どんどん奥へ。
大きくてみずみずしい私のくちびるが、私の股から生えているストローを咥える。

プゥーーーーー、プ、プーー。

昨日私がしたのと同じように、私の身体の中にまるで風船のように空気が吹き入れられた。

 *

お腹が痛くて痛くてたまらない。お腹の中の器官は傷付いて、その上空気を入れて膨らまされているのだから当然だった。
痛みと圧迫感で何も考えられない。

「キャーー!!」

彼女は悲鳴を上げて私から逃げる。私は私のくちびるの先で咥えられて揺れている。
苦しいが、もうどうしようもない。

クラクラと意識を失いかけたとき、お腹により強い圧力が、プゥとかかった。そして、

パンッ

私のお腹はあっけなく破裂したのだった。

 *

地面に打ち捨てられてもまだ私は生きていた。そうだ。そうだったそうだった。

視界に反転して見える大きな私と彼女。かわいそうな小動物を見る目つきで、彼女は口を開いた。
「とどめを。刺してあげたほうが。」

なんで?! 私なんだよ、お願い! 気付いてよ…… お願い……
朦朧とした意識の中、私は必死で訴えかける。でも、彼女には私はただの死にかけのカエルとしか写っていないんだ。

やだ…やだ…… 踏み潰されるなんてやだ…… どうして気付いてくれないの……

苦しみ以上の絶望の中で、よく知る履き慣れたサンダルの裏面が天から私に覆い被さる。ぐりぐりぐりぐりゾリゾリゾリゾリ……
私は私の足で完全に磨り潰された。今夜の夕立で、私の痕跡は完全になくなるだろう。私が最期に感じたのは、サンダル裏面の波波と焼けたアスファルトの感触だった。

オワリ

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