湯たんぽ

タグ: 状態変化 物品化 液体化 食品化 手違い 食べられる | 2013年2月15日 08:10 | Pixivで見る
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起きがけに冷えた湯たんぽの中身ゴクゴク。

「そろそろ寝よっか」

そう言いながら彼女は来客用のふとんを敷かずにベッドで掛け布団を片手で上げ、手招きしている。まぁいいか。
誘われるままに布団へ潜り込むと、ふとんや彼女自身からお風呂に入りたての香りとそれが乾いた後の残香が漂ってきた。ギュッと抱きしめたい衝動にかられるけども、明日起きたときに腕が痺れてたらヤだからやめた。その代わりに、冷えた手を彼女のおしりにのばす。

「ひゃ! うぶぶ、さぶい。ちょっと今日こんなに寒いのに、あんた冷え性じゃん」

そう言いながら彼女は手を避けるように掛け布団を巻き込みながら向こうへ転がっていってしまう。ふとんを取られたこっちは寒い。

「ちょ、さむいさむい……」
「私も冷え性なんだから勘弁してほしい」
「この前あった湯たんぽは?」

前に一緒に寝たときは、互いの冷えた足をあたたかい湯たんぽに絡めていたはずだ。

「台所からベッドに放ったら、狙いが外れて割れた」
「へ。」
「寝る前に床がびしょびしょになって大変だった。そのまま寝たけど」

めちゃくちゃだ。

 *

「じゃあ、私を湯たんぽにしてよ。」
「なに? 寝てる間にまたベロベロ足を舐めまわされるわけ?」
「ちがうちがう。概念的湯たんぽじゃなくて、存在としての湯たんぽ。」

お風呂上りの足で乗せられたり挟まれたり。眠りながらも足蹴にされている湯たんぽを見て、この前私はたしかにうらやましいと思ったのだ。

「んー。いいけど。じゃあ、身体を丸めて?」
「うん。」

ふとんの中で三角座りのようにして丸まると、彼女は私に魔法をかける。
身体が小さく縮みながら、表面がプラスチック上に固まっていく感覚。身体中の体温が一点に集まって、どんどん熱くなる。

身体が小さく縮みながらモノになる感覚は、首絞めセックスに似てると思う。グッと絞められることによって不安と緊張が身体全身からどんどん一つの中心へ固まっていってく。そして、それがついに爆発して、快感の波となって全身へ現れる。でも、どっちかっていうと、爆発するのはモノとして消費された時なのかなぁ。

そうこう考えているうちに、パジャマは合わさって一つになり、湯たんぽカバーになる。トプリ……。身体の中身が完全に液体になって揺れている。変化が済むと、私は一つの小さな、熱い、湯たんぽになっていた。

 *

(ハァ……ハァ……)
煮えたぎるような身体の熱さに私は感情が高まっていた。そんなことにはお構いなく、彼女は私をいつもの湯たんぽと同じように足元へ押しやった。そして、おやすみも言わずに寝てしまった。

(モノにあいさつしないのは当然か……)

私は動くこともできずに、ただ眠っている彼女が無意識に動かした足が自分へより長く当たっていてくれることを願うだけだ。

 *

バサッ

ふとんが取り去られる。朝日の差し込んだ部屋は眩しい。彼女は起床したようだ。
眠たい目をしながら洗面台へ行ったのを見届けると、シャカシャカという歯磨きの音を聞きながら、私はまだ動けない身体で今日の朝食を何にしようかと思案する。

キュ と水道の閉まる音が聞こえてから、ペタペタと彼女はベッドへ戻ってきた。まだ眠そうな目をしている。そして、ベッドから私を拾い上げた。
私の身体というか中身は冷えきって、ぬるま湯になっていた。少し、寒い。彼女は、やけどしないかをカバーに指を差し込んで湯たんぽの温度を確認すると、カバーを脱がせる。私は裸になった。固まって動けない身体を見られるのは恥ずかしい。朝から服を脱がせて何をするつもりだろう、と疑問に思っていると、彼女は私についたキャップに手をかけた。

瞬間、前泊まったときの朝の光景が思い浮かばれた。たしか、私がご飯を作ってる間に、ベッドわきで冷えた湯たんぽの中身をゴクゴク飲んでたような。え。寝ぼけてて、私が湯たんぽになってることを忘れちゃってる? もしかして、わたし飲まれちゃう???

(イヤ! まって!! 私だよ、思い出して…! 湯たんぽじゃなくて私だよ!!)
クルクル、キュポンッ

叫びに気付かず、彼女はキャップを取り去ってしまった。そして、毎朝と同じように注ぎ口に口を接吻して、私の身体を傾ける。

(まってまって! あああ、飲まないで!!)
ゴク。
(ふぁわっ お願い、気付いて。。。)
ゴクゴクゴクゴク……
(キャアアアアアあああ……! やめてええぇぇぇええ!!! ああああああ!!)

起きがけで活動前の彼女の身体に、程よく冷えて温かい湯たんぽの水は隅々まで染み渡っていくようだった。

 *

彼女は大きく上を向いて最後の一滴まで飲み干した。今日の湯たんぽの水は、なんだか女の子の香りとスッキリした電解質の濃度と甘みがあって、飲みやすかった。毎日使ってるから私の匂いが移ったのかな。でも、寝る前にポカリ混ぜたっけ?

「あっ」

飲み干した湯たんぽの容器を見ると、妖艶な裸で体育座りをしている女の子の形をしている。た、たしか、寝る前にあの子を湯たんぽにして……

「……やっちゃった」

ケプ。急いで飲んだせいか、一緒に巻き込んで飲み込んだ空気が胃から漏れる。甘い香りのするその小さなゲップは、彼女の魂の残りのような気がした。

オワリ

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